大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)374号 判決 1977年1月27日

第一審原告

共栄火災海上保険相互会社

(昭和五一年(ネ)第二三四号事件控訴人・

昭和五一年(ネ)第三七四号事件被控訴人)

第一審被告

高橋新一

(昭和五一年(ネ)第三七四号事件控訴人・

昭和五一年(ネ)第二三四号事件被控訴人)

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  一審被告は、一審原告に対し、金二八万五、〇〇〇円及びこれに対する昭和五〇年四月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審原告のその余の請求を棄却する。

二  一審被告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを五分し、その三を一審被告の、その二を一審原告の負担とする。

四  この判決は、一審原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

一審原告訴訟代理人は、第二三四号事件につき「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金三〇万八、七五〇円及びこれに対する昭和五〇年四月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を、第三七四号事件につき控訴棄却の判決を求め、一審被告訴訟代理人は、第三七四号事件につき「原判決中、控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、第二三四号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、原判決事実摘示第二項の「当事者の主張」欄の摘示と同じであるから、これを引用する。

証拠として、一審原告訴訟代理人は、甲第一ないし第四号証を提出し、原審及び当審証人阿久沢曻三、当審証人大島末治の各証言、原審における調査嘱託の結果を援用し、一審被告訴訟代理人は、原審証人高安和男の証言、原審における一審被告本人尋問の結果を援用し、甲第一、二号証の各原本の存在と成立は認める、第三、四号証の各成立は認める、と述べた。

理由

一  一審被告運転の大型貨物自動車(千一一か二五〇三号、以下「加害車」という。)と訴外阿久沢曻三運転の普通貨物自動車(群一一い二二六一号、以下「被害車」という。)とが昭和四九年七月一二日午後五時五〇分ごろ、埼玉県本庄市照若町二五一番地先交差点において衝突し、被害車が破損したことは、当事者間に争いがなく、本件事故現場である右交差点付近の状況や、右両車が衝突するに至るまでの経緯についての当裁判所の認定は、原判決の説示と同じであるから、その当該部分(四枚目表一行目から五枚目裏二行目まで)を引用する(ただし、四枚目裏五行目の「(一部)」を削除し、同五、六行目の「同阿久沢曻三(一部)」を「原審及び当審証人阿久沢曻三」と訂正し、その次に「当審証人大島末治」と加入し、五枚目表八行目の「被害車の右前角付近」を「被害車の左前角付近」と訂正し、同枚目裏一行目の「<1>付近」を「<2>付近」とそれぞれ訂正する。)。

二  そこで、阿久沢及び一審被告が本件交差点に進入する際の信号機の表示について検討する。

1  一審被告の助手として加害車に同乗していた高安和男は、原審の証人尋問において、加害車は原判決添付現場見取図(以下単に見取図という。)記載の<乙>信号機の表示が赤に変わると同時に発進した旨供述している。この供述に従うと事実関係は次のとおりとなる。

見取図<イ>点から一審被告が被害車を発見した見取図<ロ>点までの距離は一一・四メートルであるから、発進してから<ロ>点に至るまでの時間は、加害車が発進直後であることや、見取図記載の加害車のスリツプ痕が二・六メートルにすぎないことを考慮すると、<ロ>点における加害車の時速は二〇キロメートル(秒速約五・五メートル)を超えていることはなかつたものと推認されるので、約二・五秒と認めるのが相当である。従つて、右時間を二・五秒とみると、加害車が<ロ>点に達する〇・五秒前には見取図記載の<甲>信号機は青に変わつたことになり、反面、阿久沢は、見取図の<2>点で<ロ>点の加害車を発見したのであるから、阿久沢が<2>点に達する二・五秒前には見取図記載の<丙>信号機は赤に、又六・五秒前には黄に変わつていることになり、阿久沢運転の被害車の時速を四〇キロメートル(秒速約一一・一メートル)とみてそれを距離に換算すると、<丙>信号機が赤に変わつたのは<2>点の約二七・八メートル手前であり、又黄に変わつたのは約七二・二メートル手前であることになる。

2  一審被告は、原審の本人尋問において、<甲>信号機が青に変わつてから<イ>点を発進した旨供述している。右供述に従うと、阿久沢が、<2>点に達する四・五秒前には<丙>信号機が赤に、又八・五秒前には黄に変わつていることになり、これを距離に換算すると、赤に変わつたのは<2>点の約五〇メートル手前であり、又黄に変わつたのは約九四メートル手前であることになる。

3  原審及び当審証人阿久沢曻三の証言には、被害車が<1>点付近を進行中、<丙>信号機が黄になつた旨の供述部分があり、成立に争いのない甲第四号証にも右と同旨の記載がある。これらに従うと事実関係は次のとおりとなる。

<1>点から<2>点までの距離は七メートルであるが、阿久沢運転の被害車の時速は約四〇キロメートルであつたのであるから、<1>点付近でブレーキを踏んだ旨の右阿久沢証人の証言を考慮に入れても、阿久沢が<1>点から<2>点に至るまでの時間は、一秒を超えることはないものと推認される。従つて、右時間を一秒とみて、阿久沢は<2>点で<ロ>点の加害車を発見したのであるから、前記1のとおり、<ロ>点における加害車は<イ>点の発進後二・五秒経過しているので、一審被告は、<乙>信号機が黄に変わる〇・五秒前の青の表示の時に<イ>点を発進したことになる。

以上の事実を前提に、高安、一審被告及び阿久沢のうち、何れの供述が信用できるかを検討するに、右1の事実によると、阿久沢は、交差点に入る約三〇メートル手前(<2>点は交差点内ではない。)で<丙>信号機が赤に変わつたのにかかわらず、あえて交差点に進入したことになり、自己の進路に交差する道路が国道一七号線の、交通の激しい幹線道路である(甲第四号証)だけに、そのような無謀な進入を計つたとするのは蓋然性が少なく、高安の右供述はそのままでは信用できないし、右2の事実によると、1より一層の無謀な進入となつて、一審被告の供述もそのままでは信用できないし、右3によると、<甲>信号機の赤の表示に従つて<イ>点で一且停止した一審被告が、その信号機を未だ赤で、しかも<乙>及び<丙>信号機が青の表示の時に<イ>点を発進したことになつて、その時点が早過ぎることにおいて疑わしく、阿久沢の右供述もそのままでは信用できない。

そこで、以上の検討を踏まえたうえでの右3人の各証言等に、一審被告は、左側車線を進行して本件交差点付近に至り、先行車が信号待ちのため停止線付近に停止したので、それとの追突を避けるため右折車用である右側車線内に入つて<イ>点に停止し、同点で直ちに発進できる態勢で信号待ちをし、直進するため発進したこと(一項で引用にかかる原判決認定事実)、その際、左側車線内に停止した先行車は、未だそのままであつたこと(原審証人高安の証言)阿久沢運転の被害車は、当時、時速約四〇キロメートルで走行しており、その道路に交差する国道の幅員は一一メートル(甲第四号証)であるから、右の速度をもつてすると約一秒もあれば交差点の通過が可能であること、阿久沢は、<2>点でブレーキをかけスリツプしている際、<イ>点付近の停止線に他の車が停止しているのを見ていること(原審証人阿久沢の証言)、阿久沢は、本件事故直後の警察官による実況見分の際も、<1>点付近で<丙>信号機が黄になつた旨説明していること、以上の事実を総合して判断すると、一審被告は<甲>信号機が未だ赤であつたが、<乙>信号機が黄に変わつたために見込み発進し、他方、阿久沢は、<2>点に達する約二・五秒前の、距離にして約二四メートル手前(ただし、前記3のとおり、<1>点から<2>点まで一秒として計算)で<丙>信号機が黄に変わり、<1>点付近で一旦ブレーキを踏んだものの横滑りしたため、黄信号のまま通過可能と判断し、交差点に進入したものであると認めるのが相当である。

三  当裁判所は、被害車の所有者である訴外藤井茂之が本件事故により蒙つた損害は、金四七万五、〇〇〇円であると認める。その理由は、原判決の説示と同じであるから、その当該部分(七枚目裏一行目から八枚目裏二行目まで)を引用する。

ところで、本件事故の惹起については、被害車の運転者である阿久沢にも、対面する<丙>信号機が黄に変わつた時点では停止位置に停止できるだけの余裕があつたと考えられるのに停止することなく、あえて交差する道路が交通の激しい国道である交差点の通過を計つた点において過失があることは明らかであるので、これを被害者側の過失として考慮すべきところ、本件事故の態様にかんがみ、四〇パーセントの過失相殺をすることとし、一審被告の賠償すべき損害は金二八万五、〇〇〇円であると認める。従つて、訴外藤井に対して金四七万五、〇〇〇円を支払つた一審原告は、一審被告に対し、右金二八万五、〇〇〇円の請求権を有することとなる。

四  以上によると、一審原告の本訴請求は、一審被告に対し金二八万五、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること明らかな昭和五〇年四月二三日から支払済みまで年五分の調合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当であるところ、右損害額につき金一六万六、二五〇円のみを認容した原判決は一部不当であるから、一審原告の控訴に基づき原判決を主文第一項のとおり変更することとし、一審被告の控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九六条、第九二条、仮執行の宣言については同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺一雄 田畑常彦 丹野益男)

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